この男は、手を繋ぐのが好きだ。
他にもキスとか、髪を触ったりとか、とにかく恥ずかしいことが。
気持のいいことなら大歓迎です。前にそういったことを覚えているだろうか。あいにくその恥ずかしいことが、気持のいいことであると俺も思ってきてしまった。

暗い。
つまりまだ夜明けではない。
自分のものではない部屋。ドイツの部屋は、そいつの好みでもある重厚な多くの家具により暗く見える。古き良き、を大事にするあのイギリスなんかの部屋よりももっと。それは日の出ていない夜の方が強く感じる。そう初めて思ったのはいつだっけ。
これまた重厚なカーテンからわずかに漏れる月の光が、その光を反射する場所を見つけられず、どこにも行けないまま消えてしまう。街灯の光はない。夜寝る時に人口の光が入ると居心地が悪いそうだ。その意見には概ね賛成だが、ひどくこの男らしいとも思った。
光の無い部屋、窓際に置かれた大きなベッド。今まで眠っていた訳だから目は闇に慣れている。辛うじてシルエット以上のものが見えた。一瞬居ないのかとさえ思ったほど、ベッドの中という場所に限定しては離れた体。
これで背なんて向けていたら、即刻ベッドから蹴り落とすところだ。あくまで夜のマナーの問題で。
先日目が覚めたらあいつの顔が間近にあって思わず蹴り落としたことを思い出す。要は程度が大事という話。そういえば、普段気味が悪いほど仰向けに真っ直ぐ寝る相手が、今日はベッドの端を背にして、心持ち狭そうに横向きになって眠っている。手を自らに引き寄せて、ぎゅっと。もちろん全然かわいくない。
わかってねぇな。程度を知れよ。うちのばか犬は本当に融通が利かない。でっかい図体小さくして、それでもお前、すぐ側にある、これまた大きなソファで寝ようとは、移ったりはしないんだな。
言われないことはしない?いいこだ、ばか犬。
ふと、
手に触れたい、衝動的に、そう思ってしまった。つまりそれは”繋ぎたい”だ。いやいや、無いだろ気持悪い。どこの乙女だ。この馬鹿じゃあるまいし。ちょっと俺のいうこと聞いたから、ご褒美に俺から握ってやるのもいいかもしれないと思い、しかし満場一致で実行に起こすのは否決。ナイス判断力だ。

ギシ、と。闇に溶けかけながらも形を保ったドイツが身じろぐ。
眠りを妨げるほど激しく自問自答したつもりは無い。だが、驚くほど寝相の良い男がぼんやりと目を開けた。こちらを見る青い瞳。アローという声は聞えていないようで、視線をあっちへこっちへふらふら。揺らせた末に止まったのは、俺の顔?
じゃ無くて少しずれた俺の手。
止まった視線の先に、ゆったりと、しかし一直線に相手の手が伸び、握った。繋いだ。引き寄せた。
また寝る。小さくなって。きつそうに。でかいくせに。
(ばかだね、お前は)
男同士で手なんて繋いで何がいいの。俺がそう言わなくて誰が言うんだ。自分にとってもなんともいえない行為に文句を言うなんて馬鹿らしい。同じく馬鹿になってしまった俺の頭のせいで。
バカだね。やめておけばいいのに。
手なんて繋いだら、お互いに逃げられなくなってしまうだろう?



なみだがでそう
09.10.13