午後一番の授業に国語。正直退屈していないとはいえない。いくら前の席に座っているフェリシアーノのように机に突っ伏して深い眠りにつかなくとも、ルートヴィッヒの意識も黒板の文字と教師の話からは外れかけていた。 良い天気だ。窓際の後方にあるルートヴィッヒの席はこんなときこそ特等席と言えた。心地よい日差しによって、ここ最近では痛いくらいに思われた寒波も今日は幾分和らいでいる。窓越しの背中は温かい。窓の外に広がる校庭では天気の良い中体育をしている様子が見えた。どのクラスだろうか。ふと目に留まる。 普段はめったに体育などには出席しない顔が見えた。いつも下ろした髪を今日は後に軽く結んで足元のボールを軽く蹴る。アントーニョ!ポンと軽く蹴られたボールが軽く弧を描いてその名前の相手の足もとに飛ぶ。飛んだボールは地面に着かずにその足に拾われた。めずらしいなとルートヴィッヒは思った。 体育なんて面倒だと、常にどこかに消えてしまうことを知っていた。きまぐれに出席している姿はめずらしい。おそらくその内容がサッカーだからだ。彼も、その悪友である男もその実力は確かで、二人が揃えば授業という名の独壇場になることは明確だった。現に今も、半々に分かれたチーム戦で目立っているのはその二人であった。二人の間をまるで命令されたかのようにきれいに真っ直ぐ飛んでいくボール。気まぐれに見せるドリブルには今更ながらやはり確かな技術があるなとルートヴィッヒは思った。 そういえば、こんな姿を見るのは久しぶりだ。 自分の中でフランシスといえば、ネクタイをしていない制服を着崩し放課後の校内を暇つぶしに歩き回っては何か面白いことを探してる・・・といいつつなにかやらかす。そんな感じだった。ボールを追いかけ軽く早く駆けるその姿が、なんだかすごく新しいものに思えた。あいにく目が良い。遠くに見えるその姿がはっきりと見えることを意識してルートヴィッヒは少し顔をしかめた。駆けるたびに揺れる髪が太陽の光を受けて光っている。日の下にこうして駆ける健康的な姿が、似合わない男だと思っていた。思ったよりも無駄の無いその動きでその髪だけが残像のように残る。短いからそれも一瞬だ。ふわりと見えたかと思えば消える。ふわりと揺れるその髪が、見た目通りに、もしくはそれ以上に柔らかいことをルートヴィッヒは知っていた。フランシスの、気まぐれな遊びのおかげで。 不本意だ。不本意、何が?知ってしまっていることが?気まぐれな遊びにつき合わされていることが?問いかけても、自分の中からは何の声も生まれない。 ピーッと、高い音が鳴った。試合の時間が一区切りついたらしい。走りをとめた身体から力を抜いてはっと息を吐き出す。その音が聞えるかのように感じた。はーと息を吐いたフランシスにアントーニョが近づき話しかける。さらに遠くに見える点数表を見ると、二人のチームの圧勝だった。話す内容はここまで聞えなかったが、軽く言い合って戯れている姿が窺えた。今日はもう終了なのか、その場で解散のようだった。おのおのに話しながらこちらの校舎へと向かってくる。ちょうど校舎の真ん中辺りに位置する四階の教室の後方。校庭から見れば何十とある窓の一つ。こちらに向かってアントーニョと話しながら歩いてくるフランシス。自分が思ったよりも長くその姿を見続けていたと気付いたルートヴィッヒは、一旦意識を教室内へと戻す。ふと前を見ると教師が先ほどと変わらない様子で教科書に目線を落として話している。前に座るフェリシアーノは変わらず寝息を立てていた。もう一度外へと目を向ける。 教室へと向かうフランシスの姿は大きくなっていた。上から見ていることに気が付かれるかと思い一瞬身体を引いたが、アントーニョと話すフランシスがこちらに気が付く様子は無かった。 動き回ったため熱いのか、ジャージの上着を腕に抱え歩くその姿は校舎脇へと回るように歩いていく。それを追うように目線を動かすルートヴィッヒは、その姿を追いすぎたせいで自分の姿勢が不自然になることに気が付いてそれをやめた。視界からフランシスが消える。目立つその姿を、目で追う理由を大して考えては居なかった。この前までは。その姿も行動も目立つ男。自分に何かと突っかかってくるので、そのせいで目に付くのだと思っていた。だから、遠くに見えるフランシスの姿を追っている自分に疑問を持った。何故?目に付くから、だから追う。それはなぜか。もう、目障りだからだとは、目立つからだとは言えない。そう思ってきていた頃だった。 目をそらす理由 10.01.09 |